「寒いな」
僕はベランダ越しに夜の東京の街を眺めながらストロングゼロを開けた。 住み慣れたこのアパートから見える景色には見飽きている。 今は冬だ。厚着をしていても肌寒さを感じる。
実家のあるの長野から東京に出てきて3年になる。 慣れない満員電車に四苦八苦しながらもどうにかこうにか暮らしてきた。 東京に出てきた理由はデザイナーになりたかったからだ。 長野でそれが実現できなかったというわけではない。ただ何かを変えるきっかけが欲しかった。 家族は「どうやって食べていくんだ?」と心配をした。 僕を思いやる気持ちは十分に伝わってきたけれど、僕の中にくすぶっていた気持ちは収まってくれなかった。自分で自分の背中を押すために東京へ移り住むことを決めたのだ。
新宿駅のホームを降り立ったあの日、渦のように動き、壁のように立ちはだかる人々を前にただ圧倒されるばかりだった。
不安が高まり、足がすくむ。
僕にできたのはただがむしゃらに、精一杯強く歩を進めることだけだった。
昔は「ほろよい」を飲んでいた僕も、いまではすっかり「ストロングゼロ」だ。 年のせいもあるのか、健康に気を使って糖質・プリン体ゼロを自然と選ぶようになった。
以前は毎週馬鹿騒ぎして飲み歩いていた友達も、最近は都合がつかずに顔を合わせていない。 僕の生活にはお酒だけがただ残った。
これは強がりなんだろうか?
眠気を感じて、部屋の中に戻ってベットに腰を下ろした。 このまま自然と意識が遠いていくのだろう。
僕は「今日」という日をゼロリセットしながらを暮らしている。 1日の終わりに「今日」振り返るには力が残っていない、そんな日々が続く。 そんな夜でも、ストロングゼロを流し込むと焦りも不安も溶けていく。
少しため息をついて部屋の真ん中をしばらく眺めていた。
それでも良いのではないかと思う。少なくとも僕は前に進むことができているはずだ。
ただがむしゃらに。
あの始まりの日に、戻るためにゼロになる。 あの日の強さを取り戻すために、
そう、ゼロになる。
今日もストロングゼロを飲む。